こめいがねんど

むつ市大畑町と東津軽郡蓬田村から青森県の歴史や記録を紹介する歴史探求ブログ

源さんが行く163

  

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お世話になっております、シヨウX3です。

 

 原始謾筆風土年表(げんしまんぴつふどねんぴょう)とは

  江戸時代の下北地域の政治・経済・文化を、近江出身で大畑にて商業に従事した村林家の二代目源助(通称)によってまとめられた記録です。

 

源さんの記録・享和三年その2です。

 

享和三年(1803)の記録・其の弐

■大坂の松右衛門が、箱館の入り江に島を築き港湾を整備をした。

またこの人は以前に安くて丈夫な織帆(おりほ)を開発した人物である。

寒い冬の時期、百石ぐらいニシン船にはムシロを繋ぎ合わせて用いていたが、波を避けて引き下ろすのには、この木綿の帆が利用しやすいのだそうだ。

ところで港湾整備と言えば、承安二年(1173)平清盛が和田の美崎を切り開いて兵庫に大和田の泊を築いた。

しかし今では難波の地名に残るだけである。

 

大和田の泊

平清盛日宋貿易の振興のために工事を行い宋船が入港できるようになったが、平氏の没落後まもなく荒廃した。現在の神戸港の前身。

 

 ■箱館に掘り抜き井戸の水道が整備され、箱館山の上にも家が建つようになった。

 

川のない函館に日本二番目の水道施設

 今では全く想像できませんが、昔、函館は早朝に天秤棒で水売りが商売になるほど深刻な水不足の町でした。

飲料水確保のためには河川の存在が必要不可欠ですが、当時の函館は川が全く存在せず、函館山からの湧き水とわずかな井戸に頼るしかなく、慢性的に水不足の状態でした。その函館が明治二十二年に日本で二番目に水道を敷設(ふせつ)し水不足の解消に至ります。それまでの経緯をご紹介します。

①新築箱館奉行所も水不足

 蝦夷地を直轄した江戸幕府は、享保三年(1803)に現在の元町公園付近に箱館奉行所及び役宅を新築します。

函館山山麓は岩盤が固く、つるはしなどの粗末な装備では井戸掘りに困難が伴い、一ヶ所掘るも水量不足を起こし、不自由な生活を強いられています。

 そこで奉行所役人富山元十郎があちこち探したところ、函館山に清水を発見、かけいを架けてこれを引きます。

奉行の羽太正養はその功績を不朽に伝えるために富山の泉と名づけ碑を建てて賞賛しました。

高田屋嘉兵衛と掘り抜き井戸

 文化三年(1806)、全戸数の約半分の三百五十戸焼失の大火があり、大町にあった豪商高田屋嘉兵衛の店舗も焼失します。

嘉兵衛は翌年、大坂から井戸掘り職人を呼び寄せ、また手押しポンプを各町内に寄贈します。

住民は高田屋の井戸と呼び、飲料水はもとより初期消火に必要な水の確保に多大な貢献をしました。

 

 その後、明治年間に井戸は四百ヶ所に増えるも、水不足はいっこうに解消しませんでした。

 

水不足を解消した願乗寺川

 安政六年(1859)、願乗寺(西別院の前身)の僧侶堀川乗経は、本山から多額の援助金を受け、当時函館湾内に注いでいた亀田川を中の橋から四キロの人口の川(掘割)を掘り、現在の銀座通りにあった既存の掘割に注ぎます。

飲料水および消火用水が確保されたため、川の流域に人が住み始め、町の趨勢は徐々に東部方向へと広がりを見せていきます。

この川は正式には新亀田川ですが、住民は感謝を込めて「願乗寺川」と呼びました。

 しかし、人口増加により汚水が川に流れ込み、明治十九年にコレラによる死亡者が九百人も発生します

さらに上流から流れた土砂が函館湾を浅くしたため、赤川から仮設水道を準備の上、明治二十一年に埋め立てられたのが、現在の高砂通りです。

 

 享和三年の源さんの記述は、富山の泉高田屋の井戸のどちらとも受け取られる書き方になっています。源さんがこの記録を実際に清書したのは文化四年です。おそらくその両方を意識して(知っていて)、記録していると受け止めてよいでしょう。

箱館奉行所はその後移動し、富山の泉の碑も今は残っていないそうです。

【原始謾筆風土年表・資料編】より

 

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つづく

 

 

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